ふたり白夜の空の下



大変だ。お前のトナカイ逃げてるよ。
そんな声で目がさめた。
お外を見たら、本当だ。
やんちゃでかわいいあの子がいない。
大変、捜しに行かなくちゃ。
うん、大丈夫。
だって、まだまだ日は高い。


茶色のヤランゲ(遊牧民の居住小屋)に手に振って
あの子を探しててくてく歩き。
お日さまきらきら笑ってる。
ごきげんさんな青い空。
さてと、あの子の行方は今いずこ。
誰かにちょいと聞いてみよう。

ねえねえ、松の林さん。
ぼくのトナカイ知らないかい?
かわいい子どものトナカイで
右のお耳がぎざぎざで
お鼻の先が白いんだ。

ああ、その子なら知ってるよ。
けれども、まだまだまだ遠く。
お前がその子に出逢うには
たくさん歩かにゃなるまいよ。

ありがと、松の林さん。
ぼくならまだまだ歩けるよ。
大丈夫。
だって、こんなに日は高い。


あの子を探しててくてく歩き。
足の下では土の音。
向こうからは、草の匂い。
風の音さえ柔らかい。
それでも夏は長くない。
今度の雪が降る前に
あの子にそりを教えなきゃ。
さてと、あの子の行方は今いずこ。
誰かにちょいと聞いてみよう。


そこの黄色いお花さん。
ぼくのトナカイ知らないかい?
あなたみたいにかわいくて
右のお耳がぎざぎざで
お鼻の先が白いんだ。

そうね、その子なら知ってるよ。
けど、まだずっと遠くにいるの。
あなたがその子に出逢うには
ずっと歩いていかなくちゃ。

ありがと、黄色いお花さん。
がっかりなんてしてないよ。
ぼくはまだまだ歩けるし
大丈夫。
ほらね、こんなに日は高い。

あの子を探しててくてく歩き。
静かに青く光る湖(うみ)。
向こうの岸がうっすら煙る。
水に触ればひやりと冷たい。
今度この水凍ったら
あの子とそりで渡ろうか。
いつしか、ずいぶん遠くに来たもんだ。
ちょっとここらでひと休み。
大丈夫。
だってまだまだ日は高い。

いつの間にやらうとうとと
疲れた身体が沈み込む。
はっと気付いて目が醒めた。
お日さまにこにこぼくの上。

ねえねえ、ずっと見ていた太陽さん。
ぼくのトナカイ知らないかい?
かわいい子どものトナカイで
右のお耳がぎざぎざで
お鼻の先が白いんだ。

ああ、その子なら知ってるさ。
けれども、その子はまだ遠く。
でも本当は、すぐ近く。
その子はお前のすぐ後ろ。
そっと、水鏡のぞいてごらん。
その子はずっと、そこにいる。

鏡みたいにきれいな水面。
そっとのぞくと、ぼくの顔。
そのすぐそばに君の顔。
右のお耳がぎざぎざで
お鼻の先が白い君。

やっと見つけたつかまえた。
なのに、どうしてまた逃げる?
ずっとぼくの後ろにいたんでしょ?
……そっか、やっぱりそうだよね。
無理矢理ひっぱられちゃ、嫌だよね。
もう強引なことしないから
君の気持ちも考えるから
一緒に帰ろう、ヤランゲに。
ほら、鈴だってあるんだよ。
君にぴったりの、かわいいかわいい銀の鈴。


ちりりんちりりんしゃんしゃんしゃん
足取り軽く、鈴の音高く
ふたり白夜の空の下。
あんなに遠かった道のりも
ふたりで歩けばこんなに早い。
ほら、もう見えてきた。
茶色いヤランゲ、ぼくの家。
一緒に歩いてくれてありがとう。
ああ、君に名前をあげなきゃね。
何にしようか。何がいい?
お日さまにこにこ空の上。
そうだ、君の名前は白夜にしよう。
気に入った?
それじゃあ、ふたりで一緒に
ただいまを言おう。




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